No.8「大規模自然災害の被害低減化への提言」

―首都圏大規模水害の被害低減化を例にしてー

2012年3月26日 石岡領治

1.この課題を取り上げた理由と狙い
 東日本大震災の人的、物的被害は予想をはるかに超える甚大なものであった。
 この震災から、大規模な自然災害に対しては、想定外の事象に対応し得る体制を作り上げることの必要性を痛感した。
 我が国は現在、国土の10%を占める洪水氾濫区域(洪水時の河川水位より地盤の低い区域)に、総人口の約50%の人々が居住し、全資産の約70%が集中するなど、洪水や高潮により大きな被害を受けやすい状況にあると言われている。こうした状況を踏まえ現在首都圏で進められている国及び地方公共団体による、大規模水害に対する被害低減化の取り組みを取り上げ、大規模自然災害の被害低減化の可能性、問題点を検討る。

2.プロジェクトメンバ−
 池田尊、大川治、大崎理津子、尾身博武、河内山勝晴、松村秀雄、石岡領治(リーダー)

3.被害低減化へのアプローチ
   被害低減化を推進するためには、以下の3段階が必要であると考えた。
 1)大規模水害の現象予測、被害想定などの基本情報を既往の被害情報とともにシミュレー
  ション技術等も駆使して収集すること。

 2)基本情報から地域ごとのハザードマップを作成し周知、活用を図る。
 3)住民側の主体的参加の実現と、長期間、継続的な行政との一体的取組

3−1 大規模水害の詳細な被害状況の推定の現状
大水害のシミュレーションは主として国で進められている。その例を以下に示す。
1)中央防災会議で利根川や荒川等の堤防が決壊した場合や東京湾に大規模な高潮が発生し た場合の氾濫状況のシミュレーションを実施し、被害状況の想定を行っている。その 結果は以下のようなもので、広く公表されている。

  @ 広大な地域が浸水する場合がある。
A 浸水深が深く避難しなかった場合は死者の発生率がきわめて高くなる地域がある。  B 地下空間を通じて浸水が拡大する可能性があること。
C 浸水地域では電力が停止する可能性が非常に高いこと。
D 浸水継続時間が長くライフライン被害が発生し孤立者の生活環境維持が困難になる  E 堤防決壊に至る前から被害発生の予測が可能で、浸水域拡大までに時間がある。
本シミュレーションは200年に一度の発生確率の洪水量に加え、1000年に一度の洪水量に対しても検討されており、破堤箇所の設定も実態に近く、堤防決壊から洪水到着までの時間の想定も可能。

2)国土交通省は200年に1度の確率の洪水量により浸水する地域を、「氾濫シミュレー ション」により推定し、浸水深の数値も加えて、「浸水想定区域図」として公表している 。このシミュレーションは破堤地点を一定間隔で設定し浸水区域と浸水深を想定している。大河川のハザードマップはこの国土交通省の浸水想定区域図が使われている。

3―2 ハザードマップ作成と防災計画の立案の現状
 洪水ハザードマップは浸水想定区域図に避難場所、避難経路、洪水予報の伝達法、避難情報の伝達方法など、洪水時の迅速な避難の実現に必要な事項を記載したものである、作成要領が策定されており、国土交通省、都道府県が公表している浸水想定区域を含む市町村の長は、洪水ハザードマップを各世帯に提供することになっており実施率は高い。
 ゼロメートル地帯を含む市区町村では、ハザードマップに以下のような避難活用情報、災害学習情報なども追加し、住民に解り易いように工夫している例が多い。

@ 避難施設についても収容能力や、インフラの充実度の表示
A 避難先までのルートの確認法、浸水地域の水深の読み方 避難時のチェックリスト
B 洪水の到達時間の予測
C 洪水の基礎知識  水害の発生メカニズム 地形と洪水の形

3―3 減災への、住民と行政との一体的な取り組みの進捗状況
  1)アンケートに見るゼロメートル地帯の住民の意識
  @ 洪水ハザードマップ読んだことがある        42%
  A 洪水に対して自分の区は安全だと思う        34%
  B 荒川や江戸川が決壊しても我が家は床下浸水以下   45%
    ハザードマップは配布されているが、読み方の指導が不十分、大型洪水の被害想定の
    理解が不足、等の問題は解消しておらず、更に行政依存の意識も感じられ、住民と行
    政の一体的な防災の取り組みに至るまでには、解決すべき課題が存在する。

  2)ハザードマップの活用法の教育
  @ 洪水時の自宅付近の浸水深さを理解する。
  A 自宅周辺の地域防災拠点、待避施設を理解し、設置場所までのルートを確認する。
  B 各種警報の種類と、避難行動開始の関係の理解
  等、町内会、自治会単位での学習、訓練が必要
  3)ハザードマップの問題点の解決
  @ ハザードマップは地域情報が不足。洪水の来る方向、到達時間の予測が不可能。
  A ハザードマップは難しい。前提条件、説明文も読みにくい。用語も解りにくい。
  B 認知度が低く、住民の間で共通の話題になりにくい
  等、ハザードマップは使う側からの問題点も多数指摘されているので、各自治体は地域単
  位での勉強会、訓練を通して十分説明をおこなうとともに、制作側にもフィードバックし
  て、より良いマップ作りを推進する必要がある。


4.提言
  大規模水害は、堤防決壊から氾濫域拡大までに時間があるから、この間に的確な避難を実
  現し被害の軽減化を図るのが基本である。その実現のために以下の提言を行う。

  @   シミュレーションはメッシュを小さくし、時間のファクターを加味できる形に改良
   し、地域の要望に合う「浸水想定区域図」を目指しデータのレベルアップを進める。

   A、ハザードマップは避難時の指針と同時に継続的な防災訓練の手引書としての役割を有
   するから、住民の要望にそった、解り易く使い易いマップの作成を目指す。

   B 浸水想定区域においては、防災教育を義務教育の中に位置付け、防災意識の定着を図
   る努力を長期的な実行計画のもとに進める。

   C  市区町村は防災担当の専門家を育成し住民の防災意識のレベル向上を図る。国交省、
   都道府県の担当者と市区町村の担当者間の問題意識の共有化を図る。

  D  防災訓練を通して住民に、自分たちの安全は自分たちで守るという意識を醸成する。

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